オントロジーは、ある領域で扱うものの種類や関係を明示するための考え方です。 税理士事務所を例にすると、「顧問先」「案件」「担当者」を何と定義し、どのように結び付けるかを整理します。AIの導入では、検索する資料や業務データの意味をそろえる設計に利用できます。
W3CのOWL 2はオントロジーを記述する言語で、クラス、プロパティ、個体、データ値を扱います。本稿ではその考え方を入口に、事務所で定義を検討するための表を示します。OWL 2の概要
オントロジーと用語集は何が違うか
用語の意味に加えて、対象どうしの関係も明示する点に着目してください。次は実在の事務所データを使わない設計例です。
| 整理するもの | 用語だけを決める例 | 関係まで決める例 |
|---|---|---|
| 顧問先 | 契約の対象となる顧客 | 顧問先が案件を持つ |
| 案件 | 特定の依頼に対応する仕事 | 案件が顧問先に属し、担当者を持つ |
| 担当者 | 案件の対応を担う職員 | 担当者が案件を担当する |
| 期限 | 作業を終える期日 | 期限が案件内の特定の作業に結び付く |
この例の定義を、そのまま全事務所の標準にはしません。一つの案件に担当者が複数いるか、顧問契約のない依頼も「顧問先」に含めるかなどは、自所の業務に合わせて決めます。
「顧問先」「関与先」「クライアント」を同義語にする場合も、実際に同じ範囲を指すかを確認してください。意味が異なる言葉を一つに寄せると、その違いを定義表から読み取れなくなります。
オントロジーとナレッジグラフは何が違うか
オントロジーでは概念や関係の意味を定義することに、ナレッジグラフでは対象と関係をグラフとして表すことに着目します。 ナレッジグラフは、グラフに基づくデータモデルで知識を扱うもので、オントロジーを組み合わせて意味を明示できます。Hoganほかの論文Knowledge Graphs
税理士事務所で「この案件の担当は誰か」を確認したい場合を、次の架空例で分けてみます。
| 見る対象 | この例で整理する内容 |
|---|---|
| 概念と関係の定義 | 「顧問先」「案件」「担当者」の意味と、「案件は顧問先に属する」「担当者が案件を担当する」という関係 |
| 個別データのつながり | 「案件Aは顧問先Bに属する」「職員Cが案件Aを担当する」という記録 |
| 確認したいこと | 案件Aから担当者へたどれるか。担当が変わったとき、誰が記録を更新するか |
RDFでこうした関係を表す場合は、主語・述語・目的語の三つ組を使います。例えば「職員C/担当する/案件A」という形です。W3Cの解説では、主語と目的語をグラフのノード、述語をそれらを結ぶ辺として表しています。RDF 1.1 Primer・データモデル
ただし、「オントロジーには個別データを一切含めない」という区分ではありません。OWL 2では個体も扱います。定義と個別の記録を整理するための見方として、上の表を使ってください。グラフ化しただけで担当の正しさが保証されるとは考えず、根拠となる台帳と更新手順を確認することを提案します。
オントロジーとRAGは何が違うか
| 観点 | オントロジー | RAG |
|---|---|---|
| 主な役割 | ものの種類・関係・意味を定義する | 検索した情報を生成AIの回答に利用する |
| 検討する問い | 「案件」とは何か。顧問先や担当者とどう結び付くか | 質問に必要な資料を何から取得し、どう回答に渡すか |
| 事務所側で確認する点 | 定義と関係が実務に合っているか | 正しい根拠を取得し、条件や権限を守って回答するか |
RAGには、キーワード検索、意味の近さを使う検索、それらを組み合わせる構成があります。Microsoftの資料でも、用語のずれへの対応として同義語や意味に基づく検索が挙げられています。「呼び方が違えばAIは必ず別物として扱う」とは限りません。RAGの概要
定義表を作った後は、それを検索語の対応、データ項目、参照関係などのどこへ反映するかを決めます。表を保存しただけで、利用中のRAGへ自動的に適用されると考えないでください。
表計算で始めるなら何を書けばよいか
最初から全業務をモデル化することを目標にせず、答えたい質問を一つ選んで定義を試す方法を提案します。次は「案件の担当者を確認する」ための記入例です。
| 正式名称 | 言い換え候補 | 定義・区別するもの | 関係 | 確認担当 |
|---|---|---|---|---|
| 案件 | 依頼 | 一件の依頼。顧問契約全体とは分ける | 顧問先に属する/担当者を持つ | 業務責任者 |
| 担当者 | 主担当 | 案件の対応を担う職員。承認者とは分ける | 案件を担当する | 業務責任者 |
この表は形式言語で完成させたオントロジーそのものではなく、定義を相談するための出発点です。実際の氏名や案件内容を載せる前に、利用目的と閲覧範囲を決めます。
進め方は、次の順を提案します。
- 答えたい質問と、参照すべき情報を業務担当者が挙げる。
- 質問に出てくる用語の意味、同義語にする範囲、区別すべき意味を決める。
- 必要な関係を書き、誰が内容を更新するかを決める。
- 検索やデータの扱いへ反映し、言い換えた質問と例外条件で回答を確認する。
定義を増やすかは、実際に答えられなかった質問を見て決めます。用語数を増やすこと自体を成果にせず、必要な資料と担当へたどり着けるかを判断材料にしてください。
オントロジーを入れるとGoogleのAI検索に引用されるか
オントロジーを使うことだけで引用を保証するものではありません。GoogleはAIによる検索機能への掲載に特別な追加要件や専用の構造化データを求めておらず、通常の検索でインデックス登録され、スニペットを表示できることを条件として挙げています。GoogleのAI機能とウェブサイト
所内AIに業務の定義を渡す設計と、公開記事を検索で見つけてもらう設計は、それぞれ確認してください。公開記事では、読み手の質問に答える本文、根拠へのリンク、意味の分かる見出しを整えることを提案します。
どこから事務所で進め、どこを専門家と相談するか
用語の意味、担当者の役割、例外条件は、業務を知る人が決める部分です。検索製品への反映、複数システムの識別子の対応、権限の制御は、実装を担当する人と定義表を照合してください。
実務への接続を担う役割についてはFDEとは何か、導入対象の選び方は税理士事務所のAI導入ガイドに整理しています。