2026年の士業AIを検討するときは、新しいサービスの名称だけでなく、何を任せ、何を確認してから実務に使うかを決めておきましょう。本稿では、公的資料で確認できる動向と、事務所での導入判断に向けた提案を分けて整理します。
2026-10-01確認時点で、国内ではAIエージェントを対象とする評価項目が公的ガイドに追加されています。また、EU AI Actは規定ごとに適用時期が異なります。以下では、この2点と、従来からの個人情報の取扱いに関する注意点を踏まえ、4つの確認事項を示します。市場の成長率や、特定製品の優劣を予測するものではありません。
ツール選定では、回答の内容と実行できる操作を分けて確認する
AIセーフティ・インスティテュート(AISI)は2026年7月7日、「AIセーフティに関する評価観点ガイド」第1.20版を公表しました。公式発表では、AIエージェント向けに「観測と制御」という観点を設け、自律的な動作と外部環境との相互作用を評価する項目を追加したと説明しています。AISIの公表資料
この変更を踏まえ、士業事務所の選定では、次のように機能を分けて試すことを提案します。
| 試す機能 | 確認すること | 試用時に残すもの |
|---|---|---|
| 文書の検索・回答 | 示された出典を開き、回答の根拠箇所まで確認できるか | 質問、回答、照合した原文の箇所 |
| 文案の作成 | 日付・金額・宛名などを、元の資料と照合できるか | ダミー資料、文案、修正した箇所 |
| メール送信・外部システムへの登録 | 実行前に内容と対象を確認できるか。中断した処理の成否を調べられるか | 承認画面、処理結果、中断時の記録 |
最初の試用には公開資料やダミーデータを使い、外部への送信・登録は検証用の宛先や環境に限定しましょう。自動実行を必要としない業務なら、下書きの作成までを対象にする選択肢もあります。
特化型か汎用型かを先に決めるより、対象業務に必要な出典確認や操作の制御ができるかを、同じ試用課題で比較する方法を勧めます。製品ごとの対応範囲は、検討中のプランと公式仕様で確認してください。
入力する情報は、利用目的とサービス側の扱いを確認する
個人情報の入力については、2023年6月2日付の個人情報保護委員会の注意喚起が確認の出発点になります。同文書は個人情報取扱事業者に対し、個人情報を含む入力が、その利用目的の達成に必要な範囲内かを確認するよう求めています。個人情報保護委員会の注意喚起・別添1(PDF)
また、本人の同意を得ずに個人データを入力し、応答の出力以外の目的で扱われる場合には、個人情報保護法違反となる可能性があると説明しています。そのため、提供事業者が機械学習に利用しないこと等を十分に確認するよう述べています。これは同文書の要旨であり、個別の入力について適法性を判断するものではありません。
事務所で確認する際は、利用予定の情報、利用目的、契約プラン、学習利用の条件、保存・削除の条件を一緒に記録する方法を提案します。学習利用の設定だけで入力可否を決めず、顧問先との契約や職種ごとの守秘義務も含めて確認してください。条件を確かめられるまでは、実際の顧問先情報を試用に使わない運用にしましょう。
入力情報の整理には、士業事務所向けAI情報管理ガイドも参照してください。
制度の適用日は、対象の規定と組み合わせて読む
EU AI Actについて、欧州委員会の公式案内は、原則となる適用日を2026年8月2日としつつ、例外となる時期も示しています。一部の禁止行為とAIリテラシーに関する規定は2025年2月2日、ガバナンスと汎用AIモデルに関する規定は同年8月2日から適用されています。欧州委員会「AI Act」適用時期
同案内は2026-10-01確認時点で、特定の高リスク用途(附属書III)の規則について2027年12月2日、規制対象製品に組み込まれる高リスクAI(附属書I)について2028年8月2日を示しています。したがって「2026年8月にすべての規定が一律に適用される」という説明は正確ではありません。
EUに関係する案件を扱う際は、まず対象となる業務とAIの用途、提供・利用する主体を整理し、適用範囲と該当規定を原文で確認しましょう。この日程だけから、日本の事務所や個別案件への適用の有無を判断しないことを勧めます。
試用の合格条件には、修正と中断への対応も含める
ここからは本稿の導入設計上の提案です。試用を始める前に、作成したい成果物と、その成果物を実務で使えると判断する条件を決めておきましょう。
たとえば、公開資料を使って制度説明の下書きを作る仮想例では、次の確認方法が考えられます。
- 根拠のある回答:回答と原文の意味が一致し、適用日や対象の条件が抜けていないことを確認する。
- 資料に答えがない質問:根拠が見つからない状態を示せるか確認し、追加調査へ戻す手順を決める。
- 誤った回答:元資料に戻って修正し、修正後の文案を保存できることを確認する。
- 処理の中断:下書きや操作結果がどこまで保存されたかを確認し、再開または手作業へ戻す方法を決める。
処理時間を比べる場合も、AIが回答するまでの時間に加え、資料の準備、出典の確認、修正にかかった時間を記録しましょう。同じ課題を既存の方法で行った結果と比較し、品質と総作業時間の両方から採用を判断する方法を提案します。導入効果や削減率を本稿で保証するものではありません。
最初に使う判断表
4つの論点をすべて別の管理業務にする必要はありません。導入候補ごとに、次の内容を一枚にまとめる方法から始めてみてください。
| 決めること | 記入する内容 |
|---|---|
| 任せる業務 | 対象の作業、完成させる成果物、実行を許す操作 |
| 入力する情報 | 許可する資料、入力対象から外す情報、確認した契約条件 |
| 確認する根拠 | 原文の参照先、確認日、該当する規定やプラン |
| 採用・保留の条件 | 品質と総作業時間、中断時の戻し方、判断する担当者 |
見直しのきっかけは、契約・プラン・入力情報・任せる操作の変更や、試用条件を満たさない結果の発生に置くことを提案します。ベンダーや所属会から変更通知が届いたときも、該当する行を確認してください。所属会や契約に定期点検の定めがあれば、それに従ってください。
まず一つの業務でこの判断表を埋め、試用結果が条件を満たした範囲から採用を検討しましょう。
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参考資料
本文の制度・資料の確認日:2026-10-01。改訂の有無は各公表元で確認してください。