顧問先との打合せを録音し、議事録AIで文字起こしや要約を作る。使い始める前に決めたいのは、会議で扱う情報、送信先のサービス、参加者への説明、作成後の共有・削除の手順です。
「録音してよい」という確認だけで、AIへの送信や学習利用まで判断を済ませないようにしましょう。ここでは個人情報保護委員会の公開資料を基に、会議前から議事録の保管まで、事務所で確認する順序を提案します。個別案件では、顧問契約や所属士業の規律も併せて確かめてください。
録音の説明と、AIへの送信は同じ判断でよいか
個人情報保護委員会の電話録音に関するQ&Aは、通話から個人を識別できれば個人情報に当たると説明しています。その場合の利用目的の通知・公表と、録音している旨の告知は区別され、個人情報保護法上は録音の告知まで義務付けていないとしています。Q1-10は電話録音についての説明であり、顧問契約や会議の条件を含む、すべての録音の可否を決めるものではありません。
事務所の運用としては、録音の目的、AI処理の有無、利用するサービス、共有範囲を会議前に説明し、参加者の意向を確認する手順を提案します。説明項目と法令上の同意が必要になる条件を混同せず、実際の情報と契約に沿って確認してください。
例えば、病歴などの要配慮個人情報を取得する場合は、法令で定める例外を除き、あらかじめ本人の同意が必要です。通則編の「要配慮個人情報の取得」に説明があります。会議参加者である顧問先担当者の了承だけで、話題に上る従業員本人の同意まで確認できたと扱わないようにしましょう。
会議前に、何を一覧にすればよいか
次の表は、実際に利用するサービスと契約を確認するための設計例です。すべての製品が同じ処理や保存方法を採るという意味ではありません。
| 確認する工程 | 埋めておく情報 | 不明な場合の扱い |
|---|---|---|
| 録音・録画 | 対象の会議、扱う情報、録音を開始・停止する人、保存先 | 録音範囲を限定するか、手作業のメモへ切り替える |
| アップロード・文字起こし | 送信するファイル、処理する事業者、再委託先、利用するアカウント | 顧問先の実データを送る前に契約・公式資料を確認する |
| AIによる要約 | 入力する範囲、利用目的、学習利用、保持条件 | 条件が確定するまで送信を保留する |
| 議事録の共有 | 確認者、送付先、リンクの閲覧範囲、再共有の扱い | 確認前の要約を自動配信しない |
| 保管・削除 | 音声・文字起こし・確定版それぞれの保存先と保存方針 | 残す記録と削除する作業データを担当者が決める |
サービス名に加えて、契約プラン、設定を確認した日、参照した規約のURLも残しておくと、後から何を根拠に選定したかを点検できます。「法人向け」「有料」という名称だけで、入力してよい情報や保存条件を決めないことも確認ルールに含めましょう。
学習をオフにすれば、顧問先情報を入力してよいか
個人情報保護委員会の生成AIに関する注意喚起は、個人情報を含む入力が、特定した利用目的の達成に必要な範囲かを十分に確認するよう求めています。また、本人同意なく入力した個人データが応答以外の目的で扱われると法違反となる可能性があるため、機械学習に利用されないこと等の確認を挙げています。注意喚起の「個人情報取扱事業者における注意点」を参照してください。
この確認を踏まえ、学習設定だけで入力可否を決めず、会議の目的に不要な情報が録音や文字起こしに含まれていないかも点検しましょう。例えば、別の顧問先の話題を含む音声を一括で送らず、今回の議事録に必要な範囲を切り出す方法を検討します。削った後も個人を特定できるか、契約で持ち出しが制限されていないかは別に確認してください。
情報の種類や契約から入力可否を判断する順序は、顧問先情報をAIに入力する前の確認手順で確認できます。
クラウドへの送信は、すべて第三者提供になるか
個人情報保護委員会のQ7-53は、クラウド利用が個人データの提供に当たるかについて、サービス事業者が個人データを取り扱うこととなっているかを判断基準としています。Q12-3では、外国のサーバへの保存でも、契約やアクセス制御等の条件により外国にある第三者への提供に当たらない場合を説明しています。クラウド利用に関するQ&Aで該当条件を確認してください。
これを、文字起こしや要約を行うサービスへ、そのまま当てはめないようにしましょう。誰がどの情報を扱う契約・構成なのかを確認し、国内サーバという表示だけで送信可と判断しない手順が必要です。
個人データの取扱いを委託する場合には、必要かつ適切な委託先の監督が求められます。通則編の「委託先の監督」を基に、委託先の選定、契約、取扱状況の確認を進めてください。外国への提供や再委託を含む場合も、サービスの構成に応じて確認事項を決めましょう。
AIの議事録は、共有前にどこを直すか
情報の送信条件を確認した後も、議事録の内容を確認する担当者を決めておきます。以下は、原音や手元のメモと照合するための確認例です。
- 発言者と発言内容が対応しているか。
- 提案、検討中の案、決定事項が区別されているか。
- 金額、日付、期限、担当者が合っているか。
- 会議で確認できなかった事項に、結論を補っていないか。
- 共有相手に不要な顧問先情報や他案件の内容が含まれていないか。
架空の例として、「次回までに検討する」という発言が、要約では「次回までに実施する」に変わった場合を考えます。読みやすく整えるだけでは、約束の内容が変わったことを見落としかねません。該当箇所を原音で確かめ、不明な事項は「確認が済んでいない事項」として担当者へ戻す運用にしましょう。
共有用の確定版と、AIが作った下書きを区別し、誰がいつ確認した版かを残す形を提案します。
「削除してほしい」と言われたら、何を確認するか
削除依頼を受けた場合は、対象の会議とデータを特定し、事務所の保存方針、契約、適用される法令に照らして対応を決めてください。依頼があれば、あらゆる記録を直ちに消すという一律の運用にはしないようにしましょう。
確認表には、録音・録画、文字起こし、要約の下書き、確定した議事録、共有リンク、ダウンロード済みファイルを分けて載せる方法があります。サービス側の保持やバックアップも、公式の削除条件で確かめます。画面上で消えたことだけで、すべての保存先から削除されたと報告しないためです。
完了した操作、残る保存先、確認できない部分を記録し、契約で確認できていない完全削除や期限を約束しないようにしてください。会議前の説明と実際の保管・共有の状態を照合できることを、導入時の確認条件に含めましょう。